今年度は、国際河川における複数国による水利用の問題に焦点を当てて考察を行った。流域国が自身の水利用による純便益を最大化することによる水資源配分を「非協力的水資源配分」と定める。これに対して、流域国が、すべての国の純便益の和を最大化する水資源配分を「協力的水資源配分」と定める。定義より、協力的水資源配分においては、非協力的なそれより、パレート改善的な純便益の配分が達成される。 国際河川流域には紛争が勃発しやすいが、この協力的水資源配分により、下流域の国の状態が改善され、緊張が緩和される可能性が指摘されている。本研究では、この協力的水資源配分において、実は流域全体の水の使用総量も非協力的配分に比して、減少する場合かおることを示した。現在、一万種いると言われる淡水魚のうち、すでに絶滅したか絶滅の危惧にあるものは20%に及んでいると言われている。すなわち、淡水生態系が過剰な水利用により、危機に瀕している。われわれの研究は、河川の協力的水資源配分が、国際紛争の可能性を消すだけではなく、淡水生態系の保全にもつながることを示している。 こうした結論が出るための十分条件を定式化したのが本研究の結論である。本研究では、ある国の、上流の国々の水利用に関する反応関数を定めた。もし、すべての国の便益・費用関数が同一であるならば、反応関数が凹であるならば、協力的水資源配分における水使用総量は減少することが示される。また、それらが同一でないならば、反応関数が、上流の水使用量が1単位増えることによる減少分か1より小さいとき、同様の結論が導かれることを示した。 便益・費用関数を特定化したとき、非常に一般的なパラメータでこのような反応関数は満たされることも示された。なお、この研究は、15th annual Conference of the European Association of Environmental and Resource Economistsにアクセプトされた。
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