本研究により以下のような成果を得た。歴史的には、英国における現行の内水面漁業・遊漁制度の中核である「サケおよび淡水漁業法(1975)」に至る資源・漁場保全の制度やそれ以降の魚病対策と魚類資源の輸入・移入規制に関わる諸法令の形成過程を概観した。また魚類資源・漁場保全の現状を漁場利用者と共存的あるいは対立的な利害関係者との生態学的および経済的・制度的な相互関係として捉えた。次に、英国環境庁が旧国家河川管理局から引き継いだ河川利用ライセンス・システムに着目した。このシステムは日英の内水面利用(漁業・遊漁を含む)制度の最大の相違点であった。釣り人、取水業者、排水業者へライセンスを発行し、各収入を漁場保全、水源対策、汚染対策にそれぞれ拘束する収支構造を分析し、政府交付金への総体的な依存関係を明らかにした。また釣りライセンス料の収支を分析し、雑魚釣りのサケ・マス釣りに対する優勢下での後者への過剰な交付金補助を問題点とみなした。さらに、1998年発足の当該制度に関する諮問委員会の見直し案と2001年の政府回答とを分析した。そして改革の方向性を、現行の「集権的な漁場・魚類資源管理」体制から流域ごとの「漁場利用者集団による自主管理計画プラス財政補助」体制への転換として読みとった。最後に、内水面を含むコモンズの共同利用主体の存続条件として、外部利用者との利害調整機能と調整過程への政府の持続的関与とが必要である点に理論的含意を読み取った。加えて、わが国の当該制度改革への政策的含意として、英国のナショナル・トラストをモデルとした、漁場と魚類資源保全を目指す全国規模の民間支援組織の必要性を示唆した。
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