研究概要 |
この研究では,日本の銀行業のガバナンス構造に着目し,長引く金融危機の原因を探ることを目的とする.まず,銀行の所有構造のデータベースを作成することから始めた.具体的には,1980〜2000年における,全ての日本の銀行を含むデータベースを作成した.1980〜1983年は有価証券報告書,1984〜2000年はNIKKEINEEDSを用いた. 我々は大株主を,銀行・保険会社・非金融企業・従業員持株会・その他,の5種類に分類した.そして,株式所有構造のデータを分析した結果,日本の銀行の上位5位までの大株主は保険会社と銀行で多くを占めていることがわかった.それに比べ,非金融企業を含む他の株主は低い所有比率であった.保険会社と銀行は大株主として議決権を行使するなどして銀行の経営を規律付けする事は可能ではあるが,そのような権利が行使されるとは考えづらい.厳しいモニタリングは,大株主にとってコストとなるからである.モニタリングが効率的になされない場合,銀行の経営者は過大な貸出や不動産業への融資などの過度なリスクテイクをすることによつて,私的便益を享受しようとすると考えられる.そこで,貸出の伸び率とパフォーマンスが同時に決定されるモデルを推計することによって,上記の仮説の検証を試みた. 推計結果は,上記の仮説を支持するものとなった.大株主として銀行と保険会社の所有比率がそれぞれ高くなればなるほど,それらの銀行の総貸出の伸び率が高いことが明らかになった.また,総貸出の伸び率が高いほど,ROAとROEで測ったパフォーマンスが悪くなることも明らかになり,過大な貸出が過度なリスクティクを意味していることがわかった.
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