本研究は、わが国の為替レート政策のマクロ経済効果について、時系列アプローチに基づき、国際的な視点からの包括的な比較実証分析を行う。本年度は予備的な作業として、既存研究のサーベイを中心に行った。まず理論研究については、為替レート決定の主要な理論モデルであるマネタリーモデルについて整理した。マネタリーモデルは、長期の購買力平価と短期の金利平価の双方を含む主要な為替決定モデルであるが、伝統的な伸縮価格モデル、硬直価格モデル、より最近の合理的期待を仮定したモデルなど、複数の異なるバージョンが存在している。それぞれについて、その決定メカニズムや含意に関する違いを整理した。 次に、為替レート変動の対外収支調整能力に関する理論文献のサーベイを行った。為替変動の支出スイッチ効果については、「弾力性ペシミズム」の論争など、従来から否定派と肯定派で見方が分かれている。特に近年は、Obstfeld-Rogoffを出発点とする「新しいマクロ経済学(New Open Macroeconomics)」の一連の研究が、ミクロ的基礎付けに基づいた厳密な理論分析を行っている。ここではそういった最新の理論研究のサーベイを行い、企業の価格決定行動(pricing to market)やインボイス通貨、あるいは生産構造等の設定の違いが、支出スイッチ効果や総合的な経済厚生にどのような影響を及ぼすかについて考察した。 さらに、この「新しいマクロ経済学」に関する実証研究もサーベイした。その結果、定量的な分析はシミュレーションが中心で、調査した限りでは、現実データに基づく計量分析はほとんどなされていないことが判明した。理論の含意を反映した適切な実証フレームワークの構築が次年度の重要な課題となる。
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