研究概要 |
本年度の研究では,以下の「11.研究発表」で記した2編の研究論文を執筆した。 第1論文「Parallel Trade, Pharmacetical Innovation, and Intellectual Property Rights」ではR&D投資を活発に行っている製薬会社の投資インセンティブと並行輸入との関係を考察した。国際間のパテント政策の変更を通じて,並行輸入が認められると,独占的な企業は各国市場毎に異なった薬価をつける第3種価格差別政策が実行できず,すべての市場で同一の価格を付けなくてはならない。これによって,一般には並行輸入制が導入されると,価格差別政策に比べて企業の政策変数が制限されるため利潤が低下し,企業の研究開発投資に負のインセンティブをもたらすと主張されてきた。本稿では,製薬会社と輸入国政府のナッシュ的交渉を考え,この交渉によって輸入国市場の薬価が決定されることをモデル化した。この下で,並行輸入制が研究開発投資に与える影響を調べた。この結果ある条件の下では,並行輸入制の導入によって製薬会社の研究開発に対して正のインセティブが発生することを明にした。第2論文「国際貿易と知的財産権制度の理論的分析」では,先進国企業と途上国企業が第3国に同質財を輸出するブランダー・スペンサー型モデルにパテント政策を明示的に導入したモデルを構築した。先進国企業がR&D投資によって開発した新技術をロイヤルティの形で途上国企業にライセンス契約を提示する。この際,後進国企業が先進国企業の特許を侵害し新技術をイミテーションするために必要なコスト,侵害に対する提訴,訴訟費用,損害賠償などの知的財産権を記述するパラメータを明示的にモデルに導入した。その下で,(1)先進国企業のライセンス契約の提示(2)途上国企業の特許侵害(3)先進国企業の裁判所への提訴から成る3段害ゲームを考えた。このゲームの部分ゲーム完全ナッシュ均衡を求めることによって,パテント政策の効果を調べた。プロパテント政策の強さを示す侵害された先進国企業が勝訴する確率がある値をとる時に,世界全体の経済厚生が最大になることを明にした。この結果は,厚生上から見て,最適なパテント政策が存在することを示唆している。
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