報告者は、日本のソフトウエア産業の現状--ソフトウエア産業が厳しい受注競争に直面し、価格切り下げ圧力の中で、海外、特に中国や東南アジアのオフショア生産に乗り出している状況--を明らかにすると共に、フィリピンでのITサービス産業の調査研究を進めた。研究期間中、日系・ローカル系・外資系のITソフト関連企業及び、政府関連機関、IT関連の産業協会への聞き取りを行った。これに基づく知見は以下の通りである。 (1)フィリピン政府が一括してIT-Eサービス産業としている中で、現在急成長しているのはコンタクト・センターであり、ソフトウエア開発部門に関してはこの2年間、成長は停滞的である。 (2)近年外資系及びローカル系のソフトウエア企業の多くが日本市場を開拓したいと考えているが、日本の商習慣と日本語が参入障壁になっている。 (3)フィリピンでオフショア生産をしている日系ソフトウエア企業にとっての問題は優秀なシステムエンジニアの不足と日本語である。欧米系企業へのジョッブホッピングによって、高い能力と深い経験のあるシステムエンジニアを育てるのが難しい。 (4)日本政府から支援を得てIT技術者教育と日本語教育のプログラムが現在行われているが、まだ十分な成果が出ていない。 (5)日・比のITソフトウエア産業界の協力関係の緊密化に必要とされるのは以下の諸点である。 i)フィリピンの高等教育機関でのIT関連教育のレベルアップと産業界との連携、ii)フィリピンの公的部門・民間部門双方による日本市場開拓への一層の努力、iii)目本からの人材育成の支援と共に、日本市場参入を目指すローカル企業へ人的協力関係の構築、iv)日本企業がフィリピン企業との連携やフィリピン人エンジニアを雇用する際、彼らの得意分野とする欧米系企業とのビジネス経験や英語力を活かす形でのビジネスモデルの構築。 公的部門での協力に加えてこのような民間部門での新しいビジネスモデルの構築は、日本のソフトウェア企業の不得手な分野を補い、日本企業にとっても新しいビジネスの拡大に繋がる。
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