本研究は2年間にわたり、その目的はASEAN(東南アジア諸国連合)と中国の自由貿易協定(FTA)締結による双方への経済的影響を経済学的アプローチで分析することである。その課題を達成するために、ASEAN・中国FTAに関する仮説を吟味し、分析枠組みを構築した上でASEAN、中国双方への経済的影響を検証する。 FTAの効果は次のような分析枠組みで考えることができる。静態的効果と動態的効果である。静態的効果はまた大きく貿易創出効果と貿易転換効果に分けることができる。貿易創出効果は現在の貿易構造と関税率の水準に規定される。また動態的効果は各国政府の努力に依存するところが大きく経済政策や直接投資に対する政府の対応に規定される。 研究1年目の本年度は国連の貿易データ等の詳細分析と現地調査の第1段階として中国の雲南省とタイを訪問し、現地研究者の協力の下、詳細情報の収集と現地インタビューの結果を得ることができた。 現在までの分析結果は以下のとおりである。ASEANと中国の貿易が増加しており、特に工業品を中心に原加盟国(タイ、マレーシア、シンガポール、フィリピン、インドネシア)との水平分業・産業内分業が展開している。FTAの実施に伴ってASEAN原加盟国の対中輸出が拡大し、水平分業がさらに進展していくであろう。一方、新規加盟国(ベトナム、ラオス、カンボジア、ミャンマー)は対中輸出も増加していく見込みであるが、中国からの工業品輸入が拡大し、これらの国の工業化が遅れ、中国との垂直分業が固定される可能性が高い。 今後の課題として、現地調査結果のとりまとめ、FTA実施に伴う貿易転換効果である域外第三国への影響分析、動態的効果の分析を予定している。
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