本研究の目的は2002年11月に中国とASEAN諸国との間で締結された中国=ASEAN自由貿易協定の目的、影響、さらにはこの動きに対してASEANおよび日本がどのような対応をとるべきかを明らかにすることである。この目的の達成のため、以下の分析を行った。(1)FTA締結に関する中国、ASEANそれぞれの意図の政治経済学的分析、(2)FTAの締結の中国西南地域とメコン流域各国への影響の分析、(3)他のアジア諸国への影響の分析、(4)ASEAN諸国、日本の対応への提言。 分析は、国連の貿易データを用いた計量分析に加えて、雲南省・タイへの現地調査を行い以下の結論を得た。中国・ASEANのFTAの効果に関しては、まず、中国と原加盟国の間では、後者から前者への農産品や鉱物資源の輸出も増加するが、工業品を中心に水平分業がいっそう進展していく見込みである。これらの国にとっては貿易創出効果のもたらす利益は大きいと考えることが出来る。しかし、新規加盟国にとっては、FTA締結が自国の軽工業品に大きな打撃を与える可能性があり、工業化が遅れる危険がある。また、アーリー・ハーベスト措置等、準備が出来た国から先行して自由化を進める方法は、新規加入国と原加盟国の格差を拡大する懸念も指摘されている。新規加盟国が、FTAによる十分な恩恵を受けるためには、アーリー・ハーベスト措置を利用するための農産物の質的向上、流通の改善などによって国際競争力を強化するとともに、早急に効率的な工業化戦略を策定・推進していかなければならない。 FTA実施に伴う中国-ASEAN間貿易の拡大の日本に対する影響に関しては、日本の輸出品構造が中国-ASEAN間貿易構造と異なるので貿易転換効果は小さいが、中国の対ASEAN貿易の拡大と中国の一方的譲渡・協力に伴い、東南アジア地域での中国の存在が一層大きくなることが予想される。
|