研究課題
本研究の目的は海外直接投資をめぐる世界的な競争の中で為替レートが果たす役割について調査することにある。本研究の前半は2部から構成されている。理論モデルと実証研究である。理論モデル:理論モデルでは日本の多国籍企業は2カ国に投資を行うと仮定する。さらに日本に再輸出することを目的に、この2カ国では同じ生産物を同じ技術で生産すると考える。生産関数として従来のコブ・ダグラス型生産関数を用いる。海外直接投資受入国である2カ国間の相対海外直接投資は、相対為替レートの関数であることが導かれる。ここでの相対為替レートとは相対賃金と相対資産賃貸料を加重和したものである。2つの海外直接投資受入国において一方が自国の通貨を切り下げた場合に、この国は相対的により多くの海外直接投資を期待できるのに対し、もう一方の国は相対的に少ない海外直接投資を受けることが比較静態分析によって示される。実証分析:アジアにおける9つの製造業に対する日本の海外直接投資を1981年から2002年までのデータを用いて、中国とASEAN-4(インドネシア、マレーシア、フィリピン、タイ)間の競争を加味しながら理論モデルの結論を検討した。実証研究の結果、製造業全体と繊維、食物、電子機器、輸送機械などのそれぞれの製造業に対する日本の相対海外直接投資の決定要因として相対為替レートがあることが統計的に有意に示された。この結果は、過去20年にわたる中国の通貨切り下げが、日本の海外直接投資をASEAN-4から中国へと移した主要な要因の一つであることを示している。これらの国々の為替政策は日本のアジアに対する海外直接投資の地理的分布を新たに大きく変える上で重要な役割を果たした。
すべて 2004
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Research Paper, World Institute for Development Economics Research, the United Nations University. 2004/64
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