研究概要 |
従来の研究では、日本における急速な高齢化が後期高齢者が中心となる本格的な高齢社会において発生する問題を先送りしていることが見落とされてきた。 事実、65歳以上の高齢者に焦点を当てれば、日本の高齢化率(総人口に占める65歳以上の人口比率)は2000年ですでに17.3%、高齢者数も2,200万人に達していた。しかし、その内訳をみると前期高齢者(65〜74歳)が1,300万人と6割を占め、自立的な生活が次第に困難になる後期高齢者(75歳以上)は900万人、同4割と少なかった。しかし、国立社会保障・人口問題研究所によれば、2015年前後をピークにして前期高齢者は減少に転じる一方で、後期高齢者は増加を続け2020年前後には両者の比率が逆転すると予測されている。 20世紀末における日本の高齢化は、本格的な高齢社会への移行期に過ぎなかった。ここに、欧米諸国では高齢化に伴い低下する傾向があった貯蓄率が、日本では高齢化が進展した1990年代に入ってからも低下せずに高水準で推移したり、医療や介護の需要が増える後期高齢者を対象にした社会保障政策の整備が遅れたりした理由があったと考えられる。 そこで、今回の研究では前期高齢者と後期高齢者の間の経済、健康面などの相違に焦点を当て、本格的な高齢社会の到来が貯蓄率や社会保障に与える影響の分析を行った。その結果、日本の貯蓄率が最近低下している背景には無職の比率が高い後期高齢者の増加が影響していること、また医療や介護および年金制度の改革においても後期高齢者の増加を考慮に入れる必要があることが明らかになった。さらに長期的な出生率の低下に歯止めをかけることは本格的な高齢社会への対応としても重要だが、そのためには働く女性に対して出産・育児と仕事の両立を難しくさせている日本社会特有の「雰囲気」も改善する必要がある。こうした「雰囲気」の解明も含めて、今後はより具体的な政策の研究を行っていきたい。
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