研究概要 |
日本企業の個別財務データを中心に収集し、金融市場の動向と企業金融の関連を計量的に分析した。第1に、日本経済学会や日本金融学会などに参加し、関連の研究動向を把握するよう努めた。その結果、従来の研究では、理論的裏付けが希薄となっているケースが多いと感じたので、今回の研究では、理論的背景となる文献を見つけ出し、それを踏襲した形で、推定式を定めた。 実際に、入手したデータを吟味すると、単位根の存在が確認された。また、パネルデータ特有の残差相関も見られた。そこで、こうした推計バイアス要因を除去することに注意を払った上で、分析を進めていった。 理論上、売上高の上昇や購入額の減少が、買掛債務に対する売掛債権の比率を押し上げるということを予測し、その通りの実証結果を見出した。また、銀行の貸出が厳しくなると、非金融大企業の買掛債務に対する売掛債権の比率が大きくなる結果を見出した。これは、メルツァー効果と呼ばれる現象で、今回の研究の大きな成果の1つと言える。 こうして得られた結果を、90年代の日本経済にあてはめてみると、停滞が金融的ショックから由来していると言えるのは、98年の金融危機に限定されるという解釈を得た。それ以前では、実物的マイナス要因が働いているという結論に至った。こうした結論は、Hayashi and Prescott(RED,2002)の生産面からの分析とも一致し、興味深い結果となった。そこで、こうした研究成果を踏まえ、初稿段階としての論文にまとめた。 17年度では、日本金融学会、日本経済学会、Asia-Pacific Economics Association国際コンファレンスで、論文を発表する予定となっており、これらを通して、現在の論文を改訂していく予定である。その上で、マクロ的現象なども視野に入れ、今後の研究をさらに進めてゆきたい。
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