研究概要 |
右肩上がりの経済を前提にした我が国の社会システムが行き詰まりを見せていなかで,一層の少子・高齢化が進むと予測される将来においては,従来の公共事業の経済効果神話の呪縛から逃れ,歳出総額を削減するとともに,地方から都市へと配分をシフトさせ,医療・保健・社会保障の充実を図っていく必要がある。そこで本研究では,歳出削減・都市重点・社会保証型の財政支出システムを導入した場合,どのような影響が地域経済に表れるのかをフローとストックの両視点から分析することによって,その削減効果と雇用創出効果を定量的に捉えることを試みることを目的としている。その方法は,まずフローの視点では,伝統的実証分析手法である産業連関分析をベースに最新のマーケティング手法であるコンジョイント分析をドッキングさせ,単に支出構造変化による雇用誘発効果を評価するだけではなく,地域住民に対するアンケート調査結果をもとに,彼らにとって理想的な財政支出構造を具体的に捉え,シミュレーションを行う。そしてストックの視点からは,公共投資によって整備される社会資本を生産要素として含む生産関数をもとに,供給サイドから財政支出の雇用創出効果について分析し,投資の種類による効果や都市・農村部間での差異を検討する。なお,分析対象地としては,いずれの分析においても都市・地方(好況・不況)間の比較が出来るように複数の地域を選定する予定である。 研究初年度の今年は,現在の財政がマスメディアなどによる一時的な世論に影響されながら政治的に決定されていることを明らかにして,本来の住民選好にもとづく財政決定の重要性を確認した。次に,埼玉県と和歌山県を対象に,それぞれ無作為に抽出した住民に対して郵送調査を行い,いくつかの計量的な分析手法を用いて社会保障に対する意識が居住地域などの個人の特性によってやや異なっていることを明らかにした。
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