研究概要 |
研究2年目となる本平成17年度は,千葉県の典型的農村部である干潟町および代表的都市部である松戸市を対象として,公共事業費の削減により基礎年金財源を充当させた場合の粗付加価値波及効果を産業連関分析を用いて計測した。その結果,明らかになった点は次の通りである。 第一に,公共事業費から基礎年金財源への充当による波及効果額は農村部に比べ都市部において大きかった。第二に,波及効果係数は,農村部に比べ都市部において大きかった。第三に,都市部と農村部では家計消費構造が異なることから,公共事業費から基礎年金財源への充当による波及効果が発生する産業に違いが示された。 基礎年金の国庫負担の財政確保を考える場合,国民へどの程度の「痛み」を要請できるのかが,制度の構築において大きな論点となっている。平成16年度の年金改革においては,基礎年金国庫負担の財源は増税により充当させることを目指しており,国民への「痛み」は非常に大きくなると思われる。今年度の研究で示したシミュレーションは,公共事業費を削減し,基礎年金財源へ充当させて増税の緩和を図ることにより,地域経済への影響を抑えられることが示唆された。しかし,このシミュレーションでは,公共事業費の削減という新たな「痛み」を伴う。上記した通り,農村部では,公共事業が基幹産業となっており,大きな波及効果を発揮している。また,農村部では域内家計消費の規模が小さい。このため,農村部ではシミュレーションによる波及効果が都市部に比べ小さくなった。本稿におけるシミュレーションは,農村部よりも都市部においてより有効な政策手法であると言える。
|