研究概要 |
当該研究の最終年度となる平成18年度は,前半においては,社会保障の中でも最も国民の関心の高い「年金問題」に焦点を当てた調査を実施し,後半においては,これまで3年間にわたって調査してきた研究の成果をとりまとめた。さて,前半に実施した調査の内容であるが,我が国の年金問題が顕著に表面化し,かつ対策が取られた「農業者年金制度」について行った全国的な意識調査で,全国の職業別電話帳からランダムに2000件の農業者を抽出し,郵送で調査票を配布したところ,325件(16.3%)の回答を回収した。それを更に既に農業者年金を受給できる65才以上のグループとまだ受給できない65才未満のグループとに分類して,それぞれの意識を記述的・計量的に分析`比較した。その結果,65才以上の農業者を対象とした調査からは,改正前の旧農業者年金は,農地細分化防止や若返りには一定の効果があったものの,規模拡大にはつながらなかったことと,多くの移譲年金の受給者に受給条件上の問題がある可能性が明らかとなった。また,農業者年金は老後の生活の足しにはなっていると評価されてはいるが,生活満足度に変化を与えるほどの影響はないことが明らかとなった。一方,65才以下の農業者を対象とした調査からは,子供と同居していたり資産が多いにもかかわらず老後生活について3分の2の者が心配していることや,農業者年金の改正について肯定的な評価をした者は僅かであること,改正後の新年金は家計の負担になる割に老後生活には寄与しないと考えていることが明らかとなった。また共分散構造分析からは,老後の不安に対しては,健康不安などから構成される個人要因が最もネガティブな影響を与えており,続いて世帯員数などの家族要因,所得などの経済要因が強い影響を与えていることがわかった。また,農業者年金を受給することは,むしろ経済状況が悪く,不安であることを示しており,結果として,老後不安へと結びついていることなども,示唆された。
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