研究概要 |
本研究では,租税(財政)競争下にある地域間の租税(支出)政策が資源配分に与える影響を考察した.本年度は特に標準的な租税競争モデルの枠組みを拡張して租税競争の政策的な含意を考察した.具体的には,地域の生産活動に伴って負の効用をもたらすような財が生み出され,地方政府が供給する公共サービスはこの不効用を減少させるために供給されるものとして,そこでの租税競争が生み出す資源配分上の帰結を検討した.このような公共サービスの態様は,警察,消防,環境保全,公衆衛生といった地方政府が現実に供給している多くのサービスに当てはまると考えられる. 分析の結果,(1)地方政府が源泉地原則に基づく資本課税を政策手段として持っている場合,公共サービスの供給量が過大にもなりうること,(2)地方政府が居住地原則に基づく資本課税(モデルでは一括税と等価)を政策手段として持っている場合,源泉地原則に基づく課税がゼロに制約されているなら,公共サービスの供給量は過少になること,(3)租税競争の状態にある場合には,たとえ公共サービスの生産性が改善されても地方政府の戦略的な行動のために却って均衡での厚生水準が低下してしまう可能性があること,を明らかにした. これらの結果から,分権的な地方財政制度の下では,(3)地方政府が裁量的に操作できる政策手段を源泉地課税もしくは居住地課税のいずれか一方に制限することは望ましくないこと,(4)政策手段の適切な割り当てなしには生産技術の改善がもたらす正の厚生効果を十分に享受し得ないこと,が政策的な含意として導かれた. 上記の研究のほかに,共通代理人モデルの枠組みで,地方財政制度における中央政府と地方政府間の権限と財源の配分について考察し,その成果を国際財政学会(IIPF)で発表した.
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