研究概要 |
租税競争とそれに関連する研究テーマに取り組んだ結果,以下の研究成果を得た. 1.地域間の租税競争をモデル化するための基本的な枠組みの構築を図った.このために,標準的なヘクシャー・オリーン・モデルに公共財を組み込み,柴田・ウォーの中立命題の成立可能性を検討した.分析の結果,中立命題は標準的なヘクシャー・オリーン・モデルでも成立すること,所得移転が最終財と生産要素の形で成される場合とでは成立条件がことなることが明らかとなった. 2.企業の一部が公有化されているような混合寡占モデルを国際的な枠組みで構築し,公的企業の民営化が厚生に与える影響を物品税や関税を考慮しつつ考察した.この結果,公的企業の民営化は,政府が租税・補助金政策を自由に活用できるならば,関係するすべての国にとって望ましいことを明らかにした.しかしながら,租税政策の自由度が制約されている場合には,民営化が厚生に与える影響は企業の生産技術や企業数に依存して異なる事が明らかとなった. 3.地域の生産活動に伴って負の効用をもたらすような財が生み出され,地方政府が供給する公共サービスはこの不効用を減少させるために供給されるものとして,そこでの租税競争が生み出す資源配分上の帰結を検討した.分析の結果,分権的な地方財政制度の下では,(1)地方政府が裁量的に操作できる政策手段を源泉地課税もしくは居住地課税のいずれか一方に制限することは望ましくないこと,(2)政策手段の適切な割り当てなしには生産技術の改善がもたらす正の厚生効果を十分に享受し得ないこと,が導かれた. 4.依頼人代理人モデルの枠組みで,地方財政制度における中央政府と地方政府間の権限と財源の配分について考察した.その結果,地方政府からの中央政府へのロビー活動の態様によって中央政府の権限を分割することの厚生効果は異なることを明らかにした.
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