本年度の研究目的に沿う形で、人口転出入、財の移転などを用いた指標によって、都市間の結びつきを測る指標を構築し、地域間の連関関係を明らかにするための基礎条件を抽出することを試みた。伝統的には、日本の都道府県単位で考えた場合、いわゆる地方交付税制度に代表される地域間の所得移転によって一般的に地域間の資源移転が測られる場合が多い。このとき、都道府県単位でみた場合には、表面的には東京都のみが地方交付税の不交付団体となっており、それ以外の46道府県は交付団体となってしまい、地域間の相互移転とは言うものの、実質的には東京都からそれ以外のすべての道府県への移転という形態をとっていることを意味してしまう。 しかしながら、本年度の研究では、単なる地方交付税の受け取り量のみならず、交付税の財源拠出量を考慮して、ネットの交付税移転という概念を提示し、それを指標化することによって、地域間所得移転の枠組の中でのネットでの受け取りがプラスの自治体(winner)とネットでの受け取りがマイナスの自治体(looser)をグルーピングし、それらが1980年代以降どのような構成変化を遂げているかを明らかにした。また、効率性の観点からは、1980年代に比べて90年代に入ってからは過大な資源移転が行われていることが明らかにされた。この研究は、「国土の均衡ある発展」という国土計画の理念の実証的な検証を提供することに成功している。 理論面での研究成果としては、従来の社会資本整備の理論を公共サービスのスピルオーバー効果などを通じた地域間の関係性をモデルに統合する基本モデルを構築した。このモデルは静学モデルであるが、これを動学化することで最適な社会資本整備戦略についての政策的な分析が可能となるであろう。
|