1990年代末から増加しているバイアウトファンド主導の会社更生が、会社更生債権の弁済率に与えた影響を計量的に分析した。不況産業に属している破綻企業の企業買収案件では、同じ(不況)産業内企業(インサイダー)の資金制約のため、その産業外の資金制約の緩い企業(アウトサイダー)が最終買収者になる確率が高くなることが考えられる。バイアウトファンドはどの産業に関してもアウトサイダーであるが、バイアウトファンドが主として不況産業に属する更生会社の再建のスポンサーになることによって、不況産業の弁済率が相対的に上昇し、好況産業と不況産業との弁済率の差が緩和される可能性がある。この仮説を「ディープポケット仮説」と名づけ、他の代替的な仮説と、現実説明力を比較した。1990年から2004年の期間に手続きが開始された会社更生事件を対象とし、バイアウトファンドの活動がない前半(1990年-1998年)と、バイアウトファンドがスポンサーとなった会社更生事件が見られるようになった後半(1999年-2004年)の債権弁済率(要弁済額/確定債権総額)の関数を推計した。前半では更生会社が不況産業に属していたことを表すダミー変数が統計的に有意な負の値であったが、後半では有意性は認められなかった。こうした結果は、ディープポケット仮説と整合的である。単にバイアウトファンド主導であるから弁済率が上昇するということではなく、スポンサーが見つかりにくく、弁済率も抑制的な傾向のあった不況産業でバイアウトファンドがスポンサーとなり、好況産業との弁済率の差を緩和している可能性を検出したことが重要であり、不況産業での更生案件において一定の役割を果たしつつあるのであれば、バイアウトファンド主導の企業倒産処理の増加は、企業倒産処理の効率化にとって望ましいことと考えられる。
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