研究課題
基盤研究(C)
本研究は、イギリス造船・機械産業において世紀転換期に一連の管理・組織面の革新と標準化・規格化が試みられたが、定着しなかった理由を以下のとおり解明した。第1は革新を必要とした客観的な状況で、当該産業の経営者たちは19世紀前半までに確立したクラフト的規制状況の中に安住していたため、労働者に求められる能力・資質を客観的に記述して養成することができなかっただけでなく、現場の統括者たる職長にいかなる権限と職務を付与すべきかも明瞭にできず、現場の労務管理と生産管理が職長に委ねられた状態では、効率化を達成することができなかった。第2は革新をもたらした主体形成で、職長たち自らが、経営者と労働者の中間に立つ者のとしての自己をengineer(技術者)としてアピールしようとしたが、そのことは技師層の自己覚醒と組織化を促す効果をもち、19世紀第4四半期には各地の地方技師協会を舞台に、技術者的合理性を現場にもたらそう(当時の語では科学の成果を実践に応用しよう)とする志向性を持ち始め、効率化のための労務管理、賃金制度、工業簿記、標準化、電化等さまざまな経営革新を試みた。そして、第3がこれら革新の制約要因としての労使関係で、クラフト的な状況において労働組合と闘争できる強力な機能を備えた使用者団体は、経営革新の担い手になるどころか、むしろ冷淡で、20世紀初頭になっても労組との敵対が主たる機能であった。これは職長による成り行き管理という点でアメリカでテイラーらの科学的管理運動が直面したのと同じ状況だが、第3の点が異なり、経営革新と標準化は追求されても未熟なままにとどまった。
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経済学論集(東京大学) 74-3(印刷中)
Keizagakuronsh u(Journal of Economics), University of Tokyo Vol.74 No.3(forthcoming)
Nihon Keizai Hyoronsha
ページ: xvi+453