研究課題
これまで私は、戦前日本の失業政策について、実施された政策の中で最大の比重を占めていた失業救済事業(日雇失業者向けの公共土木事業)を中心に実証分析を継続してきた。今回3ヵ年度の科学研究費補助金の交付を受けることができたため、これまでの研究の狭い限界を超えて、研究領域を拡張する作業にとりかかった。本年度は、二つのテーマを定め、実証分析を行ってそれぞれについて論文を公表した。第一のテーマは、ホワイトカラー(事務職・技術職労働者)の失業対策の実態を明らかにすることであった。ここでは日雇労働者失業救済事業に遅れて小規模に開始された俸給生活者向けの失業救済事業の事業規模の推移、就労者の構成とその選抜方式、賃金水準、事業主体である大都市自治体の事業運営方針等を具体的に解明した上で、当該事業が主として大都市自治体職員の解雇・採用の際のバッファの役割を果たしており、それ以上の機能は限定的であったことを確認した。第二のテーマは、諸外国の失業政策と比較して、日本の失業政策の特徴点を明示する作業である。ここでは、救護事業(生活保護)の対象から労働能力のある失業者が除外されていたこと、失業保険制度が産業界によって一貫して否定されていたこと等の日本的特長の背後に、財界入の労働観が存在したこと、その結果、国際水準の失業政策を採用しようとした官僚層の意図は、財界人が企業経営の中で向き合った一般労働者ではなく、財界人にとって治安政策の対象と考えられた日雇労働者部分でのみ実現したという関連を明らかにした。
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すべて 雑誌論文 (2件)
社会科学研究(東京大学社会科学研究所) 56巻2号
ページ: 141-184
Social Science Japan Journal Vol.7, n.2
ページ: 199-221