本年度に実施した課題は以下の通りである。 (1)失業政策体系の日本的特質について戦前と戦後の比較のための作業を実施し、そのうちの最近の失業政策の変化についての研究成果を、フランス・ブラジルの研究者達との共同研究の刊行物の中で発表した。ここでは、欧州の失業政策の最近の変化と類似しているように見える日本の制度変容の中に、日本的特性が貫かれていると同時に、戦前・戦後直後の失業対策の理念の再現も見られること等を指摘している。 (2)戦前期において社会事業論の中から次第に失業対策論が自立・分化してくるプロセスを時期別・論者別に整理し、その背景として失業問題の顕在化(貧困問題一般からの失業問題の分離)と欧州における諸社会事業論・失業対策論の日本への紹介があったことを文献的に確認する作業を継続した。同時に、そうした議論が社会局官僚を中心とする政策立案者達の政策構想にどのように影響したのかを明らかにすべく努力した。 (3)失業保険の前身とも評価される日雇失業者共済制度の実態について研究史批判と資料発掘の作業を継続した。 (4)戦前期に構想されていた失業保険の制度的原型として重視されていた健康保険の財政的成功がどのようにして可能であったのかを収支計算にそくして分析するとともに、にもかかわらず失業保険制度の収支が困難に陥るものと想定され、現実政策に採用されなかった理由について、健康保険と失業保険の性格の相違が当時どのように把握されていたのかについて実証的に検討した。
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