2年計画の初年度として、平成16年度は東アジア地域の近代貿易統計の発掘、収集とコンピューターによるデータベースの構築に取り組んだ。既存の研究では使われていない満州国の1941年、42年、43年の貿易統計、中国の1941年、42年、43年、44年、46年、47年、48年の貿易統計、韓国の1946年、47年、48年、49年、50年、51年の貿易統計、台湾の1943年、46年、47年、48年の貿易統計、等を新たに発掘入手した。これらの新たに入手した貿易統計は大学院生の協力を得て、約7割をコンピューターに入力をすませ、東アジア地域の近代100年のデータベース構築の目標に近づいた。 これまでの作業の結果明らかにすることができたことは、おもに2つの点である。第一は、朝鮮貿易統計の問題点を明らかにして、その補正措置を講じ新たに推計統計を作成したことである。これは、1910年代における日本商人の虚偽申告によって生まれた貿易の過少統計を是正したこと、および1920年代から30年代にかけて朝鮮半島を通じて行われた日本と満州の直接的貿易が朝鮮貿易の中に含まれている問題、いわゆる仲継貿易の額を推計してそれを朝鮮貿易から抽出したことである。第二は、1930年代日本の対関東州輸出貿易のうちかなりの部分が、そのまま満州国にはいるのではなく、中国に再輸出されている事実を発見した。この仲継貿易の実態を明らかにしたことによって、日本の対華北輸出が通説より遙かに多く、1930年代半ばの南京国民政府の全国統合において、華北地域の掌握度が極めて弱かったことを明らかにすることができた。さらにそのことは同時期日本製品が中国関内市場から完全に排除されていたように理解していた通説に、大きな修正を迫るものとなった。
|