本研究成果として、カロリング期イタリア北部の森林の機能について、以下の3点が明らかになった。 5農民が持つ共同地としての森の用益権と、領主の一円的・排他的所有権との対立は、中世初期にも一般的な係争であった。一般に農民側の方が不利になる。 6細分化された個人所有権の確認のために、裁判集会に権利文書が持ち出されることがあり、裁判集会は、紛争解決の場であることに加え、権利関係の確認の場ともなった。 1山間部だけでなくポー河流域の沼沢地での灌木も含め、森林は家畜(牛・豚)の放牧にとって重要であった。特に、豚にドングリを食べさせる権利glandaticusが、特別に認識されていたほどであった。また、薪や大きな木材を切り出すなどの利用も重要である。 2森林をめぐる権利関係については、共同地として農民共同体が用益権を享受している場合、細分化された個人所有権の下にある<silva stalaria>の場合、修道院などの領主が一円的・排他的所有権を主張する場合など、多様であることが確認された。これら複数の権利が錯綜し重なり合う際に、係争が生じることになる。 3森は狩猟の場であり、食糧供給の場でもある。ポー河流域では特に、一般に言われるように領主層だけでなく農民にも狩猟の機会と能力があり、イノシンやシカの狩りも含め、重要な飲料調達の場であったらしい。これについては、なお今後史料の閲読を深める必要がある。 また、裁判集会文書であるnotitiaの閲読からは、以下の3点が注目された。4裁判集会文書での係争からは、自由身分を持つ農民層の活力がうかがわれる。
|