本研究の目的は、鉄道国有化以降における鉄道政策の論理や実態を、経済史の手法にもとついて実証的に検討することにある。当該期における鉄道業は、都市郊外電鉄の登場や国鉄ローカル線の濫設といった部分的トピックスとして語られることはあっても、実証密度の高い研究は意外に少ない。本研究は、鉄道国有化をもって一段落したかの印象を与えている従来の鉄道史・交通史に対する批判的立場に立ちつつ、一次史料の収集・分析に多くの労力を割きながら、この研究目的に接近するものである。 本年度の資料調査および収集は、東京およびその近郊では、国立公文書館所蔵の旧鉄道省・運輸省行政資料、青梅市郷土博物館所蔵の青梅電気鉄道文書、たましん地域文化財団歴史資料室の所蔵資料など、地方では、金沢市立玉川図書館および石川県立図書館所蔵の北陸地方鉄道関係資料、熊本県立図書館所蔵の大日本軌道熊本支店関係資料などを中心に行った。また、昨年度以前に収集した未整理資料の整理や分析にも多くの時日を費やし、今後の研究利用の便に資するための作業をほぼ完了した。 研究成果としては、共著収録論文1篇、学会報告(11月、早稲田大学)1本を発表し、そのほかにも書評1本、研究大会コメンテーター(4月、立教大学)、崎玉県所沢市(7月)、東京都江東区(9月)、神奈川県横浜市(10月)における市民講座などで本研究の分析結果の一部を速報的に公表するなど、助成による研究成果の公開と社会還元に努めた。
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