研究概要 |
研究期間の最終年度に当たる今年度は、まず太平洋戦争期のドラスティックな流通再編を金融面から支えた戦時金融金庫の事業活動を分析した。同金庫は、戦時の金融市場ではもっとも高いリスクの領域をカバーし、投資、融資、株価安定操作の面で戦時総動員体制の安定運営を支えた。この点を明らかにするため、戦時の特殊機関等を処理するため閉鎖機関整理委員会へ移管され、その後旧大蔵省が長く所蔵してきた清算業務資料を利用した。この結果、戦時経済総動員体制の中で、軍需関連産業や広汎な中小機業統合政策に伴う資金調達やリスク管理が、どのように戦時金融金庫によって確保されていたのかが空きあらかとなった。特に中小企業整備や流通再編との関連では、地域ごとの木造船所の集約や、港湾ごとの回漕業,機帆船業者の統合の実態と、同金庫の中心的な役割を解明した。 次いで、戦時・戦後統制の戦後高度成長期への遺産の問題を検討した。統制経済では、短期的需給調整と並んで中長期にわたる需給調整策として設備調整が重要となる。ここでは特に、装置産業で実施された投資調整を概観した。日本における需給調整は20世紀初めに端緒的に行われ、戦時・戦後統制経済の下で投資・生産・配給機構の計画化が本格化した。戦後も、通産省による勧告操短がしばしば実施され、改正独占禁止法に基づく不況カルテルなど短期の市場調整は70年代まで一般的であり、流通機構の集約・簡素と並んで産業合理化政策の一環でもあった。ここでは特定産業振興臨時措置法の廃案を受けて、政策介入色を薄めた需給調整システムを模索した1960年代半ばの需給調整懇談会での調整作業を石油化学工業を中心にその調整実態を明らかにした。
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