本年度の研究計画は、平成15年度に執筆した2つの研究ノート(本学『経済学部紀要』第38号、第39号)における第二次世界大戦から戦後にかけての東ドイツ経済の分析を基礎に立てられた。具体的には、「エルベ以東、オーデル・ナイセ以西」の中部ドイツ地域(のちの東ドイツ)の産業構造転換とその歴史的意義について考察することを課題とした。 分析の中心には、分裂前後の東西ドイツの地域間分業(さらに他国との関係)の特色の抽出、1950年代前半までの東西間交易(貿易)の変化などを据えた。従来の研究は、東ドイツを「一国経済」として扱ってきたため、戦前から社会主義期にかけての地域間分業の「共通性」=「歴史貫通的一般性」が看過されてきた。本研究はその点に焦点をあて、分裂後の対立の中にあって、なぜ東西ドイツ間の取引(分業関係)が続けられたのかを確認したい。 研究の成果は、第一に、第54回ドイツ資本主義研究会(平成16年12月5日、専修大学)での報告(「ベルリンの壁」以前の東ドイツにおける経済構造-戦後復興と社会主義化-」)での発表である。戦前と戦後の比較を試みる前提として、まずは戦後の経済構造の概要(1950年代)を、労働力事情(戦後の人口動態、共和国逃亡等)、産業構造政策などを論点にまとめた。 第二の成果は、上記の報告に並行して執筆した研究論文(「ソ連占領下の東西ドイツ間交易の成立」、『経済学部紀要』第41号)である。戦前に力点を置いた分析により、先述の地域間分業の「共通性」=「歴史貫通的一般性」の端緒(1950年代まで)をつかむことができた。今後の課題は、それが「ベルリンの壁」(1960年代)以降に、どのように変化したかを検討することにある。政治的には、体制間の相違が一層明瞭になっていったが、経済的には東西間の結びつきが維持・強化されたように見える。次年度の分析によって、それを明らかにしていきたい。
|