中世ヨーロッパの労働地代契約で、農民は、一定の土地を保有する代わりに、領主直営地で労働賦役を行った。こうした契約は従来「封建的」とされてきた。しかし、本研究では、同契約を、近年発達した経済学の契約理論を用いてモデル化し、そこにある合理性を明らかにした。ここで注目すべきは、労働賦役では、手作業だけでなく、家畜を使った犂耕等が非常に重要であったという点である。そこでこうした農法を維持するためには家畜を世話に手間を惜しまないことが重要である。しかし、家畜を領主が保有し、雇用労働力がそれを利用して犂耕等を行う場合には、労働者は、家畜を世話する十分なインセンティブを持たない。そのため、家畜の能力は減退し結果として生産力が低下する。これに対し、農民が家畜を保有し、それを領主直営地だけでなく農民保有地で使用できるようにすれば、農民が家畜の世話をするインセンティブは向上し、結果としてより高い生産性を実現できるのである。一方、農民たちにインセンティブを与えるため、領主は一定のレントを彼らに与えなくてはならない。そのため、家畜を用いた賦役労働を雇用労働の賃金で評価した額は、同規模の土地の貨幣地代よりも低額となることが、先のモデルによって示される。このように家畜を用いた賦役を行う「隷農villeins」は比較低額の地代しか負担しない特権的な農民であったことは、近年の地域研究でも指摘されている。さらに、本研究では、この事実をハンドレッド・ロールズのデータ・ベースを用いて数量的に明らかにした。 18年度は、こうした研究成果を、ギリシャのアテネ経済・経営大学で5月12-13日に行われたコンファランス"The variety of economic institutions under the many forms of capitalism"で発表した。
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