平成18年度においては最終年度であるため鴻池資料の分析とならんで、野崎家の調査、東京・小田原での調査(田渕家経営史料の閲覧と収集、原田関係資料の確認)などをおこなった。また別に、学生指導のために訪問した北海道羽幌町での関連調査を甲南大学の経費によっておこなった。これは明治以降に開拓が進んだ地域である北海道に関しては、伝統的家族経営への希求度が国内他地域とは異なっていると考えられ、地域比較の視点からの調査として実施したものである。 これらの調査および経過年度の調査で収集したデータを利用した論文をまとめ、平成18年度末に『甲南経営研究』に鴻池、野崎および連合王国企業の比較の視点からの試論として発表した。そこで得られた暫定的結論は、「企業が大型化し、資金需要が増加すると家族・同族からだけの資金調達では経営の維持発展は困難であるが、財務が健全であり、出資者への利益配分が適正な水準を確保できる限りにおいては、家業意識に基づく家族経営を否定する理由はない」ということであった。鴻池の場合、金融業者(銀行)として両大戦間期の拡大する金融市場に対応することが自己資本のみでは困難となり、株式会社に改組し、さらに出資者としても三和銀行創設以降はその地位を低下させていったが、土地所有を前提とするレントナーとして家産の維持を志向した。専業志向の側面としては家の経営する主要事業の業態は完全に変わったが、最大の資産であった鴻池新田は享保期に大名貸しの担保として開拓したものであり、この点に家業の継続性も見いだされた。
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