平成16〜18年度にわたって、研究課題にしたがって、鴻池資料の収集・分析および関連する家族経営企業の調査をおこなった。収集したデータは鴻池関係約五千コマ、田淵家関係約千コマにのぼった。また味野での野崎家の調査、東京・小田原での調査(田渕家経営史料の閲覧と収集、原田関係資料の確認)なども並行しておこなった。 これらの調査および経過年度の調査で収集したデータを利用した論文をとりまとめ、平成18年度末には『甲南経営研究』に鴻池、野崎および連合王国企業の比較の視点からの試論として発表した。 そこで得られた暫定的結論は、「企業が大型化し、資金需要が増加すると家族・同族からだけの資金調達では経営の維持発展は困難であるが、財務が健全であり、出資者への利益配分が適正な水準を確保できる限りにおいては、家業意識に基づく家族経営を否定する理由はない」ということであった。鴻池の場合、金融業者(銀行)として両大戦間期の拡大する金融市場に対応することが自己資本のみでは困難となり、株式会社に改組し、さらに株主としても三和銀行創設以降は顕著にその地位を低下させ、一転して大阪市街の宅地および鴻池新田という土地所有を前提としたレントナーとしての家産維持を志向した。一業に専念するという意味では、家の経営する主要事業の業態は完全に転化したが、経営方針は不変であった。継続性の側面からは、農地改革前に最大の鴻池資産であった鴻池新田は享保期に大名貸しの担保として開発したものであり、この点に家業の継続性も見いだされた。
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