本研究は、技術・知識の蓄積が大きいが、現在そのままでは成長が見込めない企業を対象として、その技術・知識を新規事業創造に結びつけるメカニズムを、知財戦略経営との関係で追求することを目的としている。知財戦略経営の論点は、「開発の戦略的方向性」と「学習組織」である。その論点をふまえ、本研究では、従来とは異なる顧客機能と技術開発の組み合わせにより、新規事業を創造するメカニズムを考察した。そのために、一般に期待される成長性を超えた成長を実現したり、いまだ収益性に結びついていなくても新規性ある発明を事業創造につなげたりするには、どのような経営枠組みが必要かを考えた。 検討の過程で、たとえば異種成膜を1つの装置で可能とする半導体製造装置のように、デバイスメーカーの文脈の観察、相互作用、プロセスイノベーションとそれに伴う知的財産の積み重ねが、あるタイミングで、大きなプロダクト・イノベーションにつながることが確認された。また、デバイスメーカー側としては、内製化へ向けた対処や新しい形のソフトウェア知的財産が自社利益の確保に必要であることも発見された。非製造業の革新としては、公的機関が基礎研究の過程で生み出した知的財産を事業に結びつけるベンチャー企業の事例が特筆される。知的財産を要素分解の上、上位概念に統合して発明を操作化し、新たな用途を生み出して事業化に結びつけている。科学・技術の進化は独立になされるが、発明概念の分解・統合がそれを用途に結びつける大きなポイントとなっている。電子書籍取次店の事例では、音楽配信の中核能力を、出版社のもつコンテンツと書店との間を結ぶビジネスモデルへと展開させている。こうして知的財産は、企業のビジョンと中核能力をふまえた方向性を示し組織学習に組み込まれてはじめて価値創造に結びつくのであり、解析的実証においても、技術・知的財産の蓄積が組織内の他の知的資産とネットワークを形成しながら価値創造へと結びつくことが観察された。
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