研究概要 |
本研究では,専門職志向への社会的関心の高まりを背景に,我が国の大学が提供するビジネススクールにおけるMBA教育システムが,日本企業の人材育成にとって真に有用なものとなっているかどうか,コーポレート・ユニバーシティと比較してどのような相違があるか,ビジネススクール教育が有用であるとすれば,それは日本企業の人材育成にどのような役割を果たすべきか,アメリカ型のMBA教育とは異なった日本企業のコンテキストに合致したMBA教育とはいかにあるべきか等々の論点について,理論的かつ実証的に追究しようとするものである。従来型のOJTとは異なる新しい人材育成方式の1つとして,日本の大学におけるビジネス教育がいかなる役割を果たすべきかについて,理論的検討に加えて,何らかの具体的提言にまとめることを目指している。 本年度はかかる研究課題の解明を目指すステップとして,わが国の主要な大企業のうち,日本の各大学にいわゆる「企業派遣」を行なっているいくつかの企業に協力を求め,MBAコースへの派遣に責任を有している人事担当部長および実際に派遣されている従業員を対象に,インテンシブなインタビュー調査を行なった。具体的には,インタビューを行なった対象企業は,大丸,大阪ガス,松下電器産業,オリックスの各社である。調査結果については目下解析中であるが,現時点での仮設的な帰結の1つは,大半の企業が企業派遣を行なっている主たる理由は,経営に関する専門知識の習得という目的も当然に存するが,それ以上に,何らかの形で他社とコンタクトを持つことで他社の情報を取得し,さらに"人的ネットワーク"を構築するという目的が強いのではないかという点である。この人的ネットワーク構築という目的は,欧米の企業がビジネススクールに対して有する志向性とは大きく異なる可能性があり,興味深い発見事実であると思われる。
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