本年度は、エレクトロニクス産業における組み立て型機器産業、たとえば、デジタル機器産業の競争力を規定する戦略要因を検証した。部品を組み立てることにより製品を設計・生産する企業をセット企業と呼ぶと、デジタル機器産業におけるセット企業はどのように価値を創造しているのであろうか。デジタル機器のようにたとえば、チップセット(システムLSI、メモリーなど)、汎用モジュール(液晶、電源、レンズ、小型モーターなど)、成型品、さらにはソフトウエアなど多くの標準化されたモジュールを組み合わせることにより製品開発を行う場合、モジュールそのものの知識とそれらを組み合わせるためのシステム知識が必要であることは予想しやすい。セット企業は製品を構成するモジュールに対し、内製化、あるいは、市場調達という選択が可能である。さらに、世界的に認知され、成長した産業では標準化によってモジュール化が進み、参入企業間の製品アーキテクチャの違いが小さくなっている。一方、年間1億台以上の市場規模を持つパソコン、携帯電話、DVDプレーヤーなどの産業では、そのモジュール市場ですら極めて大きな産業に成長しており、モジュール知識はおろか、システム知識の有無に関わらず容易に参入できる産業となっている。 このようにモジュール、システム両面において製品開発に必要な知識を市場化し普遍化させるという側面では、日本企業は大きな役割を果たしてきた。日本企業は現在でも多くの知財を支配し、セット製品・モジュール両産業において大きな影響力を持っている。しかしながら、モジュール、システム知識が普遍化してしまうと、セット企業の生産性という側面において、中国、韓国、台湾などの企業との競争では必ずしも有利な位置を築けなくなってしまう。多くの日本企業は主要モジュールを内製化しながら外販もしており、セット企業間の国際的な競争と、モジュール供給による技術の漏洩というジレンマに直面していることを明らかにした。
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