本研究においては、通文化理論を構築する方法として、カルチュラル・ケース・スタディーを進化させた。カルチュラル・ケース・スタディーとは、単なるケース・スタディーとは異なり、対象となる企業を「文化」という視点で分析する方法を指す。企業の不祥事・倫理の崩壊が報道されるたびに、「集団」の理屈が支配する「体質」という言葉を耳にする。体質とは、経営学では「組織文化」・「制度」と呼び、企業倫理の問題は、集団主義的な組織文化の問題であると考える。企業の不祥事・倫理崩壊を扱った従来の実証研究では、ケース・スタディー的なアプローチが取られることが多かった。しかしながら、従来のケース・スタディーの方法では、「組織文化」・「制度」を適切に調査・研究できているとは言いがたい。組織文化の研究では、エスノグラフィー・質的調査法と呼ばれる手法が適切であると考えられているからだ。しかしながら、エスノグラフィー・質的調査法で得られた知見は、ある特定の文脈でしか意味をなさないことが多く、部外者にはあまり有効な情報を提供しない。これが、文化を超えた(通文化)レヴェルでのダイアログになった場合、まったく無意味な研究となることが多い。本研究においては、ある特定の組織文化を対象にしたカルチュラル・ケース・スタディーであっても、通文化的なダイアログが可能となるレヴェルの理論構築の方法について考察した。
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