研究概要 |
本年度は,全体の計画の中で次のような課題のタームであった。(1)国内での映画産業における分業とネットワーク関係ならびに人的流動性やキャリア関連性についての現状調査・分析、(2)コンテンツ産業ならびに産業集積研究の先行研究の検討およびそのコンテンツ創造とその事業化についての理論的研究。我々は、東京地域に集積するクラスター段階にある映画制作プロダクション企業のキー・プレーヤーの活動やそのネットワークの変化に焦点を置いた新規およびフォローアップのインタビュー調査を実施した。また、欧州(スロヴェニア)において、海外共同研究者との打合せとともに、欧州組織学会(2004年度)での研究経過の学会報告を行った。その際、国際比較を実施するための海外フィールド予備調査についての検討も行った。 国内においては,東京都渋谷地区におけるコンテンツクラスターに関与する関係者に対する調査を実施しながら、ハイリスクハイリターンな映画産業における仮説形成を行った。特に長期にわたって良好なパフォーマンスを実現しているプロダクション経営において最も大きな鍵となっているのは、ある種の戦略ポートフォリオマネジメントがあり、安定収益源となる事業やコンテンツ群があり、有力なパートナー(企業)がいるということが見出された。テレビ番組と劇場映画のポートフォリオあるいは劇場とDVD等版権ビジネスなどとの組合せが確認された。今後は、これらの組織戦略についてボトルネック(勘所)に相違はあるかについて、詳しい事例を作成しながら検討を加える予定である。また欧州各国におけるコンテンツ研究およびその産業化の動向に関する調査を行い,コンテンツビジネスのネットワークとクラスターとしての発展の可能性と課題について検討する。その際、実写とアニメーション・CG産業などとの関連性についても十分な考慮をする。 これらの研究の結果から、コンテンツ産業の開発と流通・マーケティングのグローバルな競争優位を構築することの困難に直面している日本を含む欧州各国のコンテンツビジネスの実像が明らかとなりつつある。特に、欧州との比較において、その人材育成機関の機能の役割と企業との関係、業界のネットワークの特質や、その成長段階に応じた支援体制の欠如等、課題は多い。こうした状況を踏まえ、次年度も欧州組織学会(2005年6月:ベルリン)、国際ビジネス学会(2005年7月:ケベック)において報告予定(それぞれ受理済み)である。
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