現在、開発を進めている音声式歩行誘導システムの実用化に向けた研究、例えば、白杖のセンサー感度の向上や電子部の小型化、対環境試験やモニター試験などを進めながら、次のような調査に重点をおいた。 ○福祉のまちづくりの実態調査:視覚障害者グループ(東京視覚障害者の生活と権利を守る会まちづくりグループ)などへの調査により次のような実態がわかった。視覚障害者の中で、駅のホームから鉄道線路の上に転落した経験を持つものが、非常に多い。視覚障害者にとって駅のホームの歩行は、常に転落の危険との隣り合わせの状態である。ホームで階段を探しているうちに転落する事故も多いことがわかっている。視覚障害者にとっては、福祉型まちづくりを、便利かどうか、利用しやすいかどうかの検討の前に、安全であるかどうかがまず重要である。視覚障害者100名を対象にした調査から、駅のホームからの転落は50名が経験し、全盲者は68名中44名である。また、単独歩行をするとき、道路上で障害になるものを聞いた結果、(1)放置自転車やバイク、(3)電柱やポール、(3)路上駐車の車などがある。安全なまちづくりを考える時、安全なシステムづくりだけでなく、まちや道路の管理を確実に実行する仕組みづくりが必要である。 ○関連する新しい技術動向調査:本研究で開発中の音声式歩行誘導システムの参考となる技術動向調査を進めた。今回調査した新しい技術は、杖の先端のセンサーで色を感知し、歩行誘導タイルの黄色を識別すると、手に振動を伝え、視覚障害者を黄色のタイル上に誘導する。タイルの色識別を利用した白杖は、杖の先端に付いたセンサー内のレンズで色を感知し、色を解析する。黄色を識別すると持ち手部分に振動を伝える仕組みを持っている。 ○市場で実用化されている視覚障害者向け誘導装置の研究:[(1)音声標識ガイドシステム]視覚障害者や高齢者のための目標物確認装置。公共施設の玄関先、バスターミナルや交差点など、目標物の出入口などに予め音声ガイド装置を設置しておき、利用者が携帯している小型送信機のボタンを目標物の近くで押すと、目標物の位置や必要情報を音声で知らせる。[(2)音声ガイド触知図案内板]館内の各部屋の構成を、墨字・点字および突起を付けたレイアウト図(触知図)で表し、一般利用者、視覚障害者共に利用できる総合案内板である。さらに点字を読めない視覚障害者のため、案内板の押しボタンを押すと、また、小型送信機を携帯し、送信ボタンを押すと、案内板より音声を発し、知らせる仕組みを持つ。以上のように、本研究は技術の開発と共に利用サイドからのソフトウェアの研究が重要である。
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