研究課題
基盤研究(C)
中国の「改革・開放」以降の雇用システムの変革は、企業経営において「能力主義・成果主義」人事や労働力の「流動化」を促進することにより人材と組織を活性化させるとともに、中国全体の高度経済成長に寄与したものと考えられる。しかし、一連の改革が「格差問題」を誘発し、労働争議やストライキなど「労使間の摩擦」を顕在化させたという側面も否定できない。このような状況下、中国政府・共産党は、2001年に「工会法」を改正し、「工会設立の義務づけ」や「工会の機能強化」により労使関係の安定を企図しようとしている。その結果、近年の中国では「基層工会」数や「労働協約締結企業」数が驚異的な伸びを示すなど「マクロ」面で目覚しい成果を挙げている。また、筆者のアンケート調査によると、在中国日系企業は米国系企業に比べ「改正工会法」に対し、より積極的な反応を示していることが明らかになった。しかし、日系企業の集団的労使関係には以下のような課題が残されていると考えられる。第一は、「上からの労使関係」の様相が感じ取れるという点である。それは、日系企業における労働協約締結が社内の労使の必要性よりも社外の労働関係機関の意向を反映した事象であること、経営側と工会の「定期協議・情報交換」といった日常的なコミュニケーションが少ないことなどに現れている。第二は、「労使一体」の様相である。具体的には、日系企業では工会主席の「専従化」が進展せず、職制の管理者以上の兼任が依然として主流である。第三は、「労働争議やストライキへの工会の抑止力・対応力不足」という問題である。すなわち、日系企業では工会が労使間の摩擦の防止・解決に大きな役割を果たしているとは言い難い状況にある。第四は、工会が抱える「二重の任務」に関するものである。共産党指導下の労働者団体としての「工会」が自らの「多義性」にどのように対処していくかも注目すべき事項であると言える。
すべて 2006 2005
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Journal of Region and Society (The Institute of Regional Studies, Osaka University of Commerce) No.9
大阪商業大学比較地域研究所『地域と社会』 第9号(印刷中)