研究概要 |
Cocept Releaseに対するAAAの財務会計基準委員会の意見表明を手掛かりに,SECの外国民間発行体向け開示規制,とりわけ調整表開示要求をめぐる諸見解について検討した。Katherine Schipper, Gregory J.Jonasを中心とする同委員会は,利益と株式リターンの相関関係に焦点を当てた実証研究結果が整合しない問題点を指摘し,調整表開示要求の早急な緩和・撤廃には同意しなかった。AAAが指摘した先行研究の問題点を克服する2つのアプローチについて検討した。 第1にアニュアル・レポートの情報内容を詳細に分析したChoi[1997]をレビューした。規模(時価総額,売上高)ではシンガポール企業を凌駕する英国企業の方がチェックリストに掲げられたディスクロージャー項目数が少なかった。この調査結果は,自社株式の時価総額が母国市場全体の株式時価総額に占める割合の高いリーディングカンパニーが,資金調達の場を世界の主要外国証券市場に求めて情報開示を拡大させたことを窺わせた。 第2に株式リターンではなく,出来高を被説明変数とし,この研究領域における新機軸を盛り込んだHora et al.[2004]の実証結果を吟味した。Form 20-F調整表の提出は,出来高の増加と有意な関係をもち,本国GAAP利益アナウンス日において提供された情報を上回る増分情報を市場参加者に提供することを示唆する経験的証拠が得られた。アナリスト予測の変動係数が,調整表の情報内容を確認する異常出来高の可変性の説明に有意であることが見出された。これによりForm 20-F提出は,アナリスト予測の散布度が大きい企業の期待値をめぐる不確実性を減じることに資すると推定された。 これらの研究成果を『富大経済論集』51巻3号,1-25頁において発表した。
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