先進国中心で国際会計基準・国際財務報告基準への基準統合化が進行する影で、新興経済圏(エマージングエコノミー)は取り残されてしまった感がある。本研究では新興経済圏の会計システム選択について、理論および実態の両面から検討している。国際会計研究では、従来、先進国の優れた会計基準の研究に焦点が当てられてきたが、本研究では先進国で研究・開発された会計基準が新興経済圏にとってどのようなメリット・デメリットがあり、反面、どのような不具合があるのかを理論的に解明し、これまで十分に研究されてきたとは言いがたい、「新興経済圏の会計研究」を開拓する。 新興経済圏諸国は、自国基準を開発、改良する間もないままに、資本市場との統合化に直面し、グローバル化の波にさらされた。通常の会計基準の作成プロセスに則るならば、自国基準の検討と他国基準との比較研究、自国企業(作成者側)のニーズの調査を経て、最も望ましい会計基準の開発へと向かうはずである。しかし、新興経済圏の場合は、迫るグローバル化への対処が急務である。結果として、自国基準の開発・作成よりも、既に体系化された会計基準のいずれをどのように「選択」するかが、課題となってしまった。本研究では、新興経済圏に影響を与えた先進国の会計システムがもつ規準と戦略(ないしは対応)の変遷を明らかにしようとする視点から検討した。意思決定有用性アプローチが不具合を起こす先例を示すとともに、一方で勘定組織案型の会計システムもグローバル化した経済環境においては行き詰りつつあることを明らかにした。同時にIASB(国際会計基準審議会)でのSME(中小会社および新興経済圏諸国)のための会計基準開発に関する議論を紹介し、説明責任と認識・測定原則の研究が必要とされることを指摘した。
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