会計上の裁量を問題とする既存の実証研究のサーベイ及び理論研究を行うとともに、分析上必要となるデータベースを作成し、これを利用して分析を進めた。 実証研究のサーベイに関しては、経営者による裁量的な会計上の選択を推定するためのモデルおよび主に発生項目を分析対象とする実証的な研究を広範にサーベイし、「報告利益管理に関する実証的研究の方法と課題について」をまとめた。また、追加的なサーベイをして、「報告利益の裁量的決定一実証的研究の動向と課題一」として公表している。 データベースの作成については、連結財務諸表中心のディスクロージャー制度に移行した後の現行の会計制度における会計上の裁量を詳細に分析するために2000年以降についてデータベースを作成した。これを利用して、退職給付会計における裁量的な割引率の選択に関して、実証的な証拠を提示する論文「退職給付債務に関する裁量的情報開示一割引率の選択と株価の関係一」を完成し、公表した。そこでは、経営者における裁量的な選択を証拠付ける事実が得られ、また、これに対する市場における株価反応も検出された。具体的には、(1)未積立退職給付債務の水準、レバレッジ、収益性、企業規模が割引率の選択に影響していること、(2)割引率の裁量的選択による裁量的退職給付債務は株価に関連していること、(3)未積立退職給付債務やレバレッジの水準が高いサンプルにおいては、その他のサンプルと比較して、裁量的退職給付債務が株価水準を大きく引き下げることが確認された。これのほかに、データベースを利用して分析を進めた。
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