2001年12月に破綻したEnronのケースに代表される会計スキャンダルに起因して成立したSarbanes-Oxley(SOX)法のなかで、他の会計スキャンダルに関する調査がアメリカ証券取引委員会(SEC)に対して命じられた。本研究では、当該調査報告書のなかでSECが調査・処分した事例をもとに、アメリカにおける会計スキャンダルの実態を捕捉するとともに、アメリカの会計基準が規則主義指向(Rule-oriented)会計基準から、目的指向(Purpose-oriented)会計基準へと向かう経緯を検証した。また同時に、SECが監査人の独立性喪失の主たる原因として指摘した監査報酬に対する非監査報酬の多さについて、問題企業が監査人に支払った各種報酬を統計的に処理することによって、SECの想定とは異なり、むしろ監査報酬の多い企業ほど、当時、問題が多かった点を明らかにし、SECによるコンサルティング業務の分離要求が、理論的根拠に基づくものではなく、会計士業界に対する社会的批判を前提にしたものである可能性を指摘した。 次にSOX法で強調されたディスクロージャー適正化のうちの企業による適時開示、すなわち決算書提出までの期間短縮、を考慮し、わが国でも検討されている四半期情報開示の影響を検討した。そこでは、異なる保証水準の証明業務(レビュー業務)の必要性と受容可能性について、アメリカ公認会計士協会や国際会計士連盟のレビュー基準を参考にしながら検証し、保証水準の相違を依頼人ならびに情報利用者に対して効果的に伝達することが、当事者間での期待ギャップを防止するために重要と考え、その方法を明らかにした。このような検討結果は、諸外国と同様のレビュー業務がわが国に導入されようとしている今、期待ギャップを生じさせないための規制を如何に講じるべきか、を示唆するものとして捉えられる。
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