前年度の研究から、国際的競争の激化のなかで、企業は経営面でのパフォーマンスや新技術の創出などが優先課題となり、そこで働く個人としての従業員が、多様な価値観など文化の摩擦から直面するストレスへの配慮や、多文化職場をポジティブに活用し多様な価値の共生からシナジーを創出するという意識をもつ余裕が非常に少ない状況にあることが明らかとなった。 本年度は、従業員が不安やストレスを抱くことなく海外で、また国内でも異文化背景をもつ顧客や従業員と安心して勤務に励める職場環境構築およびそのための国際適応力・異文化スキルをもつ国際人材の育成に焦点をあて健康社会学の視点から解明を試みた。 まず、従来解決が難しかった海外派遣勤務者のストレスについては、勤務者のストレッサーとなっている帰国後の処遇・昇進、老親の看病・介護、子供の教育の問題を解決するためにも、国際要員の考え方、多様な勤務形態について再検討し、伝統的な海外派遣勤務以外の、逆出向、第三国人の登用、越境通勤、女性の登用など、形態の多様化を検討する可能性が示唆された。 こうした制度的環境が整って初めて従業員も安心して国際人材育成プログラムに取り組み、国際理解・適応力を向上させることが可能となる。そこでプログラムの内容、方法、対象に検討を加え、海外勤務者はもとより、その上司など管理者に異文化理解の視点や多文化チームに必要なリーダーシップ研修などを、事例に基づき実施することの有効性が示唆された。
|