本研究の目的は、農産物自由化とグローバリゼーションの波を受け「生き残り」を迫られている現代日本の農家の「存続戦略」に焦点を当てて、かつてとは異なった(すなわち「個人化」の比重の高い)形態をとりながらも「イエ」と「ムラ」が再構築されつつあることを明らかにすることである。 そのためにまず、新潟県佐渡市西三川地区において後継者が順調に確保されている果樹農家の事例を対象として調査研究をおこなった。現在の経営主世代と後継者世代の双方から聞き取りをすることにより、農家の存続にとって主要な要因は何かという点を考察した。経営基盤の確立とともに、女性の地位の高さと同世代の「仲間」の存在が重要であると指摘した。ついで、佐渡市大和田地区で展開している定年帰農者による農菜生産組織の事例を取りあげた。すべての個別農家が後継者を得て存続してくことがむずかしい状況で、定年後の人びとが集落の農地を守るために生産組織をつくり、「ムラ」を枠組みとして農業を維持していこうとする試みである。こうした共同の力によって、農業と地域が存続している様子を、担い手の意識に重点をおいて描き出した。 2004年の新潟県中越地震により、調査対象地として予定していた中越地域も大きな被害を受け、当初の計画通り調査研究を実施することはむずかしくなった。そこでやや研究範囲を拡げ、災害に見舞われた地域におけるコミュニティの役割、「ムラ」の役割にも光をあてて、地域の存続可能性とそのための資源を探求することも目的に加えた。一連の調査研究から、災害時には身近な地域コミュニティの果たす役割がきわめて大きいことが分かった。また、災害を契機として人の絆の重要性にあらためて注目が集まり、衰退しつつあった中山間地を再生していくための資源として再認識されつつあることも明らかになった。
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