本研究の目的は、米作りから酒造に至るまでの農家、蔵、杜氏集団からなる酒造コミュニティの実態を産地研究の枠組みで分析することであった。本年度は、吉川町の「よしかわ杜氏の郷」という第三セクター方式の蔵における、酒造に焦点をあてて、調査・研究を進め、次の点が明らかになった。 1 よしかわ杜氏の郷の酒造りのフレーミングが、永田農法による山田錦、精米歩合90%、酵母Y・G9のよる長期低温発酵の醸造法、緑健やマイコープ、五反田商店街を通してのPBなどを要素として濃淳旨口系の純米酒をめざしていること。 2 こうした酒造りに協力的な酒米生産農家、酒販店・消費者を選別するネットワークのディカップリングが行われたこと。 3 吉川杜氏集団が旧吉川村、源村、旭村ごとにリクルート組織をもっていたものが、吉川町酒造従業員組合の一本化とともに、その会長を中心とした新杜氏推薦システムが構築されて来ていること。これはGranovetter(1973)の弱い紐帯の強さ仮説を反証し、Murray(1981)やFernandez(1997)らの強い紐帯によるリクルート仮説を支持するものである。 4 酒造コミュニティにおけるフードシステムの動態が、アクター・ネットワーク論とオートポイエイシス論をそれぞれ構造化論の方向に修正した枠組みで統一的に理解できること。
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