本研究の課題は、景観問題の発生とその社会的メカニズムに関する調査研究であるが、平成16年度に行った和歌の浦(和歌山市)、雑賀崎(和歌山市)における景観問題及びハートフィールド(イギリス)、北京市などの海外における問題事例に関わる調査研究からは以下のような知見が得られている。 1.地域における景観の保全・維持・形成に関与する最も基本的な社会的メカニズムは、当該地域における入会的な制度において景観に関わる環境・空間条件が共有財(コモンズ)として有形、無形に価値あるものと認識されている場合に生成する社会的規制力を基盤に成立するものであること。 2.他方で法制度状況及びこれに依拠する国家あるいは行政の施策は、景観の保全・維持・形成の基本的な動向を誘導し、規制する点で決定的とも言える役割を果たすこと。 3.地域のコモンズとしての景観の保全・維持・形成システムと国家あるいは行政の景観の保全・維持・形成に関わる法制度及び施策との間に矛盾や齟齬が存在する場合には、景観問題の発生は必然のものとなること。 4.当該地域にとって景観問題の発生は、外来的なものによる場合と内在的状況に由来する場合とがあるが、いずれも場合にも地域の変容に対してどのような景観の保全・維持・形成のシステムが成立し得るかが大きなテーマになる。とくに地域変容の過程で景観の保全・維持・形成のメカニズムが崩壊し、有効なシステムが不在化している場合には、当該地域は、その再構築という極めて困難な課題に直面することになること。 5.景観保全運動の役割については、その対抗性という点と同時に地域における景観の保全・維持・形成のシステムの再構築という点からも検討される必要があること。
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