本研究の課題は、景観問題の発生とその社会的メカニズムを解明することにあるが、平成17年度には、前年度に引き続き和歌の浦(和歌山市)、雑賀崎(和歌山市)における調査研究を行い、またニューヨークとバンクーバー(カナダ)における調査研究を行った。こうした調査研究からは、以下のような知見が得られている。 1.景観像、あるいは景観把握が多様であり、重層的であること、こうした景観の社会的存立における多様性、重層性がそれを形成し保持している集団状況に対応するものであり、従ってまた歴史的に形成された社会的・経済的・文化的諸要因に起因するものであるという認識は、本研究の出発的におかれていたものであったが、和歌の浦で行われた和歌祭は和歌の浦における景観像の多面的・重層的生成に関わる戦略的文化事象であることが明らかになった。和歌祭は、近世初期に徳川氏の紀州入部に伴う東照宮造営を核とした和歌の浦の景観整備と不可分な祭礼として行われるようになったものであるが、万葉の以来の歌枕という和歌の浦の文化史意義を有する象徴的景観層の上に、民衆参加の祝祭行事が行われる場所としての和歌の浦という景観の集合的体験層を堆積させ、新たに民衆的次元において成立する祝祭的景観層を形成するものであった。このような民衆的次元において成立する祝祭的景観層は、和歌の浦の景観相を多面化し重層化するものになってきた。 2.このような景観の多面性と重層性は、本研究における和歌の浦以外の他の調査対象においてもそれぞれに個性的なものとして見出されるが、薪たに様々な集団の景観に対する意味付与の根源となることをも意味しており、こうした景観の歴史的で構造的な存立様態は、景観問題の発生とその成立機序に大きな影響を及ぼすことになっていると考えられる。
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