本研究は、和歌の浦における景観問題を事例として、景観問題発生の社会的メカニズムを解明するための調査研究として取り組まれたものであるが、その研究成果の概要は、以下のようなものである。1)景観問題の把握に際して重要なことは、問題化している状況の一断面を切り出して問題把握をするのではなく、歴史的・社会的脈絡のなかで景観問題の全過程を展望することのできる視野を設定する必要がある、ということである。2)このような視野の設定のもとで、和歌の浦における景観問題の最も重要な特徴として捉えられるのは、問題が一時的・一過的なものとして収束せず、社会的関心事として持続することにあり、景観問題として当初発現したものが、潜在化していた場所をめぐる問題を顕在化させるという展開が見られる、ということである。即ち、開発による現状変更は景観をめぐる意見の対立を生じさせることになるが、この当初の意見対立を契機に、場所の在り方そのものをめぐるより深刻で広範囲に及ぶ問題状況への展開が見られるということである。3)このような「景観問題の発現」-「場所をめぐる問題の顕在化」-「景観問題の持続的な社会問題化」という継起的な展開過程においては、「場所をめぐる問題」(「場所問題」)の顕在化という事態が注目されねばならず、ここに景観問題を場所問題という視座から再把握するというアプローチが成立することになる。4)以上のことから明らかになっているのは、景観問題の把握に際して重要視されるべきは、景観問題を本来的に人間的・社会的事象(現象)に関わる問題として、人間存在と不可分な普遍的現象である場所をめぐる問題として再定義することであり、景観問題の発生とそのメカニズムも人間事象・社会事象としての場所の破壊と喪失、あるいは場所の生成と変容という問題視座とパースペクティヴから再把握される必要がある、ということである。
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