歴史主義の二面性:歴史主義には、現実を認識する方法の歴史化と歴史認識の専門科学化との二側面があり、後者はアルトホフ体制による大学教育の専門職化と近代化及び科学の大規模経営とともに進展した。ニーチェ及びブルクハルトによる歴史主義批判・罵声は後者の歴史科学化に対応する。ドロイゼンとともに歴史主義の二面性を体現するのは、テーオドア・モムゼンである。 歴史宗教からの脱却:ドロイゼンとともにモムゼンも、「神の意思の働き」を信じるランケの歴史宗教に背を向け、ヘーゲルと.ともにそれを世俗化し、歴史の進歩を人倫的諸力、特に世界精神ないし理性によって説明した。歴史的に卓越した個人が世界精神ないし理性を体現し、歴史的現実において進歩を現示するとして、歴史的必然性を人格化した。また、国家は人倫的理念の現実であるとするヘーゲルの理念に従った。 モムゼンの二面性:(1)モムゼンは過去のものは生成の法則の洞察によって生成したものとして認識すべきと考え、歴史的に生成した事象の個性を再構成・概念化する歴史的方法を主張し、その概念の理念型的性格も自覚した。また「概念に属する一般的なる者の特殊なる者への進展が、総合科学の体系と体系的認識の基礎であり可能性である」と考え、諸概念の有機的全体を把握しようとした。この真実性批判の新たな方法と全体性の新たな構想の結合にモムゼンの特徴がある。(2)当時は哲学や歴史及び教会法の教授職に宗派等分配置が行われており、モムゼンは、「真面目に人倫に従って研究する学者集団の見えざる教会」を提唱し、宗派に拘束された教授職に対して無前提ないし価値自由な科学を対峙させた。宗派的思弁ではなく実証的知識ないし事実的事象の明確な認識の重要性を強調したが、歴史科学の理論を展開することは拒み、歴史記述と歴史家の科学的作業を厳密に区別した。モムゼンによれば、歴史家は本来理論的教えではなく実践的演習によって育成される芸術家なのである。
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