今年度は中国東北地方における研修生送り出し状況および朝鮮族の出国状況について資料収集ならびにインタビュー調査を行った。その結果以下の点が明らかとなった。 1.1978年の中国における経済改革・開放政策実施以降、朝鮮族は国内の大都市へと出稼ぎによる移動が増加してきた。しかし、1992年に中韓間に国交が樹立されると韓国への出国者が主流となった。これらの出国者は20万人とも言われており、自治州の労働局関連機関がその送り出し仲介機関として機能している。この一部には日本への出国者も含まれるが、公式統計にはほとんど示されていない。 2.韓国への出国は、労務輸出によるルートと親族関係を利用する観光ビザでの出国ルートがある。韓国国内では短期の親族訪問あるいは観光ビザで入国した朝鮮族の移住者がそのまま滞留し、オーバーステイや不法入国が問題となっている。そこでは教会が支援団体として存在し、延辺、瀋陽のいずれにおいても韓国系教会のネットワークが注目された。 3.今年度はこうした状況をふまえ、8月には大連・延吉・瀋陽の3カ所において、日本への研修生送り出し企業ならびに朝鮮族の国内・国外移動経験者を中心にインタビュー調査を行った。また、延辺における出国仲介機関の協力を得て30家族に対するインタビュー調査を実施することができた。これによって、延辺から日本あるいは韓国への出国状況の一部を解明することができるものと考えている。ただし、インタビュー記録の分析作業は来年度の課題である。 4.また、瀋陽において日本から帰国した元留学生が経営する企業を訪問し、日本への研修生送り出しに関する現状をインタビュー調査により把握した。このことにより、中国東北地方から日本への移動・定着に関する基本的な状況を解明し、来年度に取り組むべき課題ならびに調査票による出国者調査の可能性を探ることができた。
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