研究概要 |
今年度の当初予定では、年度の前半で吉林省および黒竜江省における出国者調査を計画していた。しかし、反日デモの影響から、地方政府レベルの協力を得ることができず、地域を単位とした実態調査は見送らざるを得なかった。そこで、調査票調査に変え、中国黒竜江省方正県における日本への出国者インタビューならびに韓国ソウル市・済州島における中国朝鮮族関連機関、国際結婚仲介業者へのインタビュー調査を実施した。その結果以下の点が明らかとなった。 1.昨年の延辺朝鮮族自治州における聞き取り調査から、韓国への出国が一つのブームとして地域に広がっていったことが明らかであった。韓国に戸籍や親族関係を持つ者が先に出国し、ネットワークをつなげたのである。そして、韓国籍の取得により定着性をもった先住者たちが、次なる出稼ぎ労働者の入国を促していった。すなわち移住産業成立のプロセスが進んだ。ソウル市九老洞の朝鮮族集住地区の形成と、労働者支援宗教団体の存在はそのことを示す。ただし、法規制の強化と帰国者への優遇策により、かなりの人がこの1年来帰国を選択している。 2.国際結婚の仲介業者へのインタビューによれば、中国朝鮮族女性と韓国人男性との結婚は1992年以降増加傾向にある。この場合、朝鮮族女性は韓国籍を取得することが比較的容易であり、最終的な目的地を日本に設定するケースも散見されるという。すなわち、韓国籍を取得した後、韓国人として日本へ入国することが可能となっている。非合法、合法いずれにおいても、中国東北地方と韓国から日本へとルートがつながり始めている。 3.黒竜江省方正県は、戦前日本の開拓民が多く存在した地域として知られている。敗戦後には多くの残留孤児を地域の農民たちが家族として養った土地としても知られる。日中国交回復後には中国帰国者として日本籍をもつ残留婦人および孤児たちの多くが帰国した。その数は2,500人といわれるが、中国で家族を形成した人々の係累はその10倍以上存在する。このため、現在では日本との関係が密接な地域となっている。ここにもまた戦前から中国朝鮮族が暮らし、第一外国語として日本語を身につけ、花嫁、家族として日本への出国者となっている。 4.これらに関しては、2006年2月から3月にかけて、黒竜江大学の関係者との共同研究として、出国者家族に対するインタビュー調査を実施している。昨年同様、これらの調査結果に関する分析は次年度の課題である。
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