本調査研究では、伝統的宗教習俗と新旧教団宗教(新宗教教団・既成仏教教団)の関係性について、両者の密接な交渉や、協調・融和関係、さらには顕在化する対立・緊張に焦点を当て、現代におけるその関係の重層性を探った。 伝統的宗教習俗とは、共同体や個人のなかに拡散している民俗宗教的な習俗を指す。旧教団宗教(既成仏教教団)は土着の民俗慣行と融和して仏式の伝統的宗教習俗を生み出してきた。また、新教団宗教(新宗教教団)は個の救済を強調しつつ、旧教団宗教と一種の棲み分けを行っている。例えば、新宗教の多くは会員のフォーマルな葬祭を行わず、その導師役を既成仏教の僧侶の手に委ねているといった宗教上の分業関係などである。 祖先祭祀慣行をめぐる位相では、伝統的宗教習俗と新旧教団宗教の間で複雑な関係を表している。つまり各要素が他と関連しつつ全体が成層的に構成され、重層的に構造化されている。 調査対象となった地域社会では、家祖先祭祀、葬儀契約講(伝統的近隣集団)、集落神社祭祀・各種宗教講の行事等が伝統的宗教習俗に当たる。近年の社会変動により、それぞれが変容している様相が判明した。その変容は、寺檀関係の結合形式に新たな局面を産み出すに至っている。さらに主として個の救済を強調する新教団宗教は社会変動の過程で伝統的地域社会に入り込んできている。中には、伝統的I宗教習俗を積極的に回避'拒否する新宗教(創価学会)もあるが、伝統習俗を回避・拒否すると同時に、それが出来ずに折れ合い行動を取らざるを得ない局面も判明した。 調査研究の結果、伝統的宗教習俗と新旧教団宗教の重層関係が把握されたと同時に、社会変動の結果、その関係性が徐々に変容していることが浮き上がってきた。更なる変容が予測されるため、その実態や程度を探ることについては今後の研究課題となるであろう。 以上の調査研究の成果は、平成17年4月に刊行された資料集、平成18年3月刊行の調査報告書に集約されている。
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